ALSで長生きするために
最終更新日:平成28年4月17日
・科学的根拠とはやや離れた話題になりますが、ALS TDIの掲示板で注目を集めていた投稿がありましたので、要約します
・この投稿は、Dick Jacobson氏(ALS当事者:2011年9月診断。四肢発症型。現在ALSFRS-R 9点、気管切開で人工呼吸中)によるものです。専門家の意見ではなく、当事者一個人の意見となりますので、普遍性がない可能性がある点については注意してください。
▽Jacobson氏は、既存の補助装置などによりALSの予後を延長させることができると信じています。ALSの進行自体を変えることはできなくても、余命を延長させることができると考えています。
▽さらに、一般的に言われているように、ALSの余命が3-5年であるとされている通説を変えるべきであると主張しています。
▽Jacobson氏の記載した4つの方法については、彼が主治医やwebinar、文献、フォーラムなど各種の情報源から得たものを総括したものであり、彼のオリジナルではないものの、これらはQOLの維持を可能な限り延長させてくれることを期待するとのことです。
1.転倒を避ける
▽ALS当事者は運動神経細胞の喪失や倦怠感などにより転倒します。これらについては予測困難です。従って、自身が下肢筋力の低下を自覚した直後から、転倒の危険にさらされることになります。また、ALS患者の幾人かは転倒により亡くなっているケースもあります。さらに外傷の結果ADLは低下し、各種合併症の危険が高まります。
▽転倒を避ける最初のステップは、補助具を使用することです。具体的には、短下肢装具、杖、歩行器、手動ないし電動車いす、ベットと浴室、トイレをつなぐ手すりなどです。その他に重要なことは、疲労を自覚し、速やかに休息をとることです。
2.栄養状態を維持する
▽Jacobson氏は、胃瘻造設がなぜそれをしていない人からこれほど嫌われているのか理解できないと述べます。手術とその後の回復は速やかであり、胃瘻を維持することは単純なことです。さらに使用にさいして問題も少ないです。合併症も対処可能なものです。低栄養や誤嚥の危険を考えると、胃瘻造設のほうがずっとましだと考えています。
▽胃瘻造設を必要とする前に、食事内容を変更することが必要でしょう。嚥下しやすいものにする必要があります。誤嚥をさけることが生命維持のために重要です。食事を少量しかとらないよりも、刻んだりすりつぶして摂取するほうがずっとましです。飲み込みの問題を自覚してすぐに嚥下機能評価を受けるべきです。このことにより、何に嚥下に際して何に注意すべきかがわかります。
3.感染を避ける
▽感染、特に肺炎は主要な死亡原因となりうるものです。感染を避けるためには、標準的な予防策、つまり感染を有する人を避ける、手指の洗浄により清潔を保つ、個人的な保護具を自分と周囲の人、特に介護者に使用します
▽さらに、インフルエンザの予防接種、肺炎球菌ワクチンの接種を受けることが重要です。周囲の人に対しても、予防接種を受けるようにたのみましょう。学童期の子どもがいる場合には、予防接種を受けさせます。
4.呼吸を維持する
▽呼吸のための装置は数多くあります。初期には、非侵襲的人工換気の導入が睡眠を助けるため推奨されることが多いです。横隔膜筋力の低下を自覚したらすぐにカフアシスト装置を導入します。高頻度胸壁振動法(Vestなど)、ネブライザーは気道を清潔に保ち、分泌を抑えるために必要です。
▽気管切開の前に、マスクもしくは鼻枕型マスクを使用した人工換気の導入が必要かもしれません。究極の呼吸補助は気管切開になります。Jacobson氏は家族らと十分な協議の結果、気管切開を行うことを選択しました。Jacobson氏は四肢発症型で、話すこと、飲み込む能力は保持されています。気管切開をしても、話すこと、飲み込むことは可能です。気管切開により24時間看護体制と適宜吸引、ドレッシング材の交換が必要となります。
・最近では痰の自動吸引装置もあり、気管切開後のケアも進歩しています。Jacobson氏は多くの人が十分な検討なしに、気管切開をしない選択肢をとっているのではないかと指摘しています。
追記:管理人の意見ですが、ALSの病状が進行しても、人としての尊厳は失われるものではありません。ただしQOLを維持するためには、ケアをする側の接し方、関係性も重要です。介護者が疲弊していては、最も重要な、ケアを受ける側の尊厳が損なわれてしまう可能性があります。介護者が疲弊しないケア体制の構築は重要な問題だと思います。